• 功労賞
    • 時実象一氏
      時実象一氏は、『デジタルアーカイブの新展開』(勉誠出版、2023年)をはじめとするデジタルアーカイブに関する多数の著書・論文の多大な研究実績に加えて、デジタルアーカイブの一翼である学術情報の整備流通においてもJ-STAGE、SIST、XMLなどその発展に寄与してきた。また、デジタルアーカイブ学会においては、その創設時から、事務局を担当する理事として、多様な活動を提案・実践する一方、学会誌編纂の中核を担い、デジタルアーカイブ実践・研究のためのコミュニティの維持・発展に並外れた活動をおこなってきた。
      これらの貢献を表彰し、功労賞を授与する。

  • 実践賞
    • 国文学研究資料館
      国文学研究資料館は2014年から現在まで、各研究機関に所蔵されている古典籍を対象にした共同研究ネットワークの構築を目指した「歴史的典籍NW事業」に取り組んできた。また本年にはこれまでのデータベースを整理し、「国書データベース」を公開し、25万点あまりの古典籍のデジタルアーカイブを公開している。これには、あらゆる分野の書物が含まれており、それぞれの分野における研究の深化はもちろんのこと、異分野を融合させた研究の展開も期待されている。
      長年にわたる活動と、古典籍研究のインフラを提供している点を評価して、実践賞を授与する。

    • 国立映画アーカイブ
      国立情報学研究所との共同研究の成果として構築・開設された「関東大震災映像デジタルアーカイブ」は、国立映画アーカイブが長年にわたり収集してきた関東大震災の映像を、ストリーミングにより公開することを目的に、2021年9月1日にオープンし、随時更新を重ねながら、地震発生から100年となる2023年9月1日に完結を見たアーカイブである。防災上の意義はもとより、埋もれた映像の発掘を全国から行った点でも価値があり、また専門家による映像の分析は、映像の背景を知る上でも興味深い。また映像資料として最初期に属するものであり、歴史的価値としても大きい。
      数年にわたる貴重なアーカイブ構築の成果を顕彰し、また今後の各種学習などでの活用にも期待して、実践賞を授与する。

    • TRC-ADEAC株式会社
      図書館を中心に、自治体史などの書籍や古文書をはじめとする資料をクラウド型デジタルアーカイブシステムに登載している。同時に、国立国会図書館サーチやジャパンサーチとも連携している。その対象は百数十機関、メタデータでも22万件を越えている。また、以前からデジタルアーキビスト養成に取り組み、近年はデジタルアーカイブの教材化に向けてのワークショップを行っているなど、デジタルアーカイブの普及に力を入れている点も、大いに評価できる。また、小規模アーカイブのシステム開発や資金獲得の提案等を積極的に行っていることも注目される。
      デジタルアーカイブにおけるビジネスモデルとしての期待も込めて、実践賞を授与する。

    • 南砺市(富山県)
      南砺市は、富山県南西部の8町村が合併して2004年に成立した。それぞれの地域に独自の文化と暮らしが遺されている。これら文化・芸術に関する情報を一元化して公開し、住民の文化・芸術への理解を促すために「南砺市文化芸術アーカイブズ」が整備された。住民自身が情報の追加や更新、画像や映像の提供を行える仕組みを整えるとともに、内外からの協力者を募集するツールをも目指している。また、掲載記事のCSVデータをオープンデータとして公開している点も注目される。
      限られた条件のなかで、地域の文化資源を世界に発信しようとする営みを高く評価し、実践賞を授与する。

    • 早稲田システム開発株式会社
      博物館を主な対象として、クラウド型のデータベースを基盤に利活用のためのアプリ等を提供している。またジャパンサーチ連携データ出力機能を早期から整備するなど、新しい動向を取り入れつつ粘り強く実践を続けている。また、 MAPPS Gatewayという横断検索サービスも提供し、博物館資料情報の発見可能性の向上に努めている。現在では中小規模の博物館のデジタルアーカイブの実質的なプラットフォームの地位を獲得している。
      長年の実践を顕彰し、博物館法の改正により、博物館資料のデジタルアーカイブ化が法的に定められた状況下でのますますの活動に期待し、実践賞を授与する。

  • 学術賞(研究論文)
    • 大井将生,宮田諭志,大野健人,大向一輝,渡邉英徳「デジタルアーカイブを活用したキュレーション学習モデル:探究学習における「問い」と「資料」の接続」(デジタルアーカイブ学会誌7巻1号p.e1-e9)
      デジタルアーカイブの教育利用は、ストックされた情報の価値を高め、デジタルアーカイブが社会に受容されるためにも重要である。本論文では、デジタルアーカイブの教育手法として開発された学習モデルが紹介される。生徒の問いとデジタルアーカイブ上の資料を接続し、キュレーション学習を行うことで、生徒のリテラシー向上に貢献するというものである。二次利用の設定というデジタルアーカイブ側の課題も指摘される。
      デジタルアーカイブの教育活用だけでなく構築を展開するために重要な研究であるため、学術賞(研究論文)を授与する。

    • 佐々木和子「阪神・淡路大震災映像への肖像権ガイドライン適用の実践;神戸大学震災文庫での公開にむけて」(デジタルアーカイブ学会誌7巻3号p.e19-e23)
      本論文では、デジタルアーカイブ学会が定めた「肖像権ガイドライン-自主的な公開判断の基準」を用い、神戸大学附属図書館震災文庫のデジタルアーカイブにおいて、株式会社サンテレビジョンが撮影・制作した阪神・淡路大震災関連映像の公開の可否を判別する作業の報告が主題となっている。サンテレビ株式会社、神戸大学附属図書館震災文庫、神戸大学人文学研究科地域連携センターと連携したプロジェクトで実施されたという点、ガイドラインを丁寧に読み解きながら、地域の状況に応じてカスタマイズする点が特筆される成果である。
      今後のデジタルアーカイブの利活用について重要な内容を多く含むことから、学術賞(研究論文)を授与する。

    • 山﨑康平「公立図書館におけるデジタルアーカイブの事例報告:静岡県立中央図書館の事例をもとに」(デジタルアーカイブ学会誌7巻3号p.e33-e38)
      デジタルアーカイブは継続して実践されることが必要であるが、実際には維持に窮することがある。本論文では、継続した取り組みが成功した事例を対象に、その要因の分析が行われている。著者が勤務する静岡県立中央図書館の具体的な事例と、これまでの学術的な研究蓄積を結び付け、デジタルアーカイブの普及を阻む要因をいかに一つ一つ解消したかが論じられる。
      今後のデジタルアーカイブの発展において重要な内容であると同時に、公立図書館におけるデジタルアーカイブの事例を長期的な変遷をもとに検討した点に着目し、学術賞(研究論文)を授与する。

  • 学術賞(著書)
    • 鈴木親彦責任編集『共振するデジタル人文学とデジタルアーカイブ』(勉誠出版、2023年)
      デジタルアーカイブとデジタル人文学(人文情報学・Digital Humanities)はこれまで、隣接分野とは意識されながらも、その関係が本格的に論じられることは少なかった。この関係性を、一方の成果が直接的・間接的に両分野の発展につながる、「共振」というキーワードのもとに、示そうと試みた業績である。関係性を根本から探り、デジタル人文学分野でのデジタルアーカイブ構築事例を検討し、デジタルアーカイブを活用した研究実践にも言及した上で、両分野の未来を見通している。
      今後の議論の方向性を定める野心的な成果と評価し、学術賞(著書)を授与する。

    • 数藤雅彦責任編集『知識インフラの再設計』(勉誠出版、2022年)
      デジタルアーカイブの制度や仕組みを、持続可能性や人材育成、予算、権利処理などを対象にして検討した意欲的な一冊である。社会設計の側面からは、知識コモンズとしてデジタルアーカイブを捉えた上で、文化政策や教育利用について言及する。法制度に関係しては、政策形成過程やソフトローを取り上げ、違法有害情報への対応も俎上に上げた。さらに、経営論や経済・ネットワークの関係からインフラを検討するなど、今まで論及されることが少なかった論点に踏み込んでいる。
      社会的営為としてのデジタルアーカイブを検討する際に欠かせない業績であると評価し、学術賞(著書)を授与する。

    • 柳与志夫監修、加藤諭・宮本隆史編『デジタル時代のアーカイブ系譜学』(みすず書房、2022年)
      本書は、デジタルアーカイブ学会SIG理論研究会による研究成果である。「複雑なアーカイブという現象を、単純化したモデルとして提示するのではなく、むしろ個々の事例に即して解像度を上げて理解しようと試みた」と述べられているように、その定義の変遷、博物館、図書館、公文書館に共通する効用と課題、自治体史や研究者資料の扱い、サブカルチャーやユーチューブの現況、複製技術の進化といった多角的な視点から分析が行われている。その結果として、デジタル時代における「アーカイブ」の社会に対する影響とその複雑な性質が明示されている。
      これらの点において、本書は極めて重要な意義を持つと評価できるため、学術賞(著書)を授与する。

  • 学術賞(基盤・システム)
    • 該当なし