功労賞
DNP(大日本印刷株式会社)が運営する「artscape」は、1995年の開設以来、30年にわたり全国の美術館・博物館や展覧会情報を発信し続けている。特に「ミュージアムデータベース」や現代美術用語集「Artwords」、専門家によるレビュー記事の蓄積は、アートシーンの動向を中心に、日本のデジタルアーカイブ黎明期からの貴重な記録としての価値を有している。美術情報と生活者を結び、芸術文化の振興と情報の保存・継承に寄与してきた功績は極めて大きい。
これらの貢献を表彰し、功労賞を授与する。
杉本重雄氏は、情報学とデジタルアーカイブの分野において、長年にわたり研究・教育の両面で指導的役割を果たし、デジタルアーカイブ学会には初期から参画してきた。同氏は、1990年代から現在に至るまで、メタデータの国際標準であるダブリンコアの開発活動、デジタルライブラリやデジタル保存の国際会議等の活動に参画し、国際的な連携推進と日本のプレゼンス向上に多大な貢献をした。また、デジタルアーカイブの長期保存について理論面で寄与してきたほか、後進育成を通じ、デジタルアーカイブを支える人材養成と知識基盤の構築に大きな影響を与えている。
これらの貢献を表彰し、功労賞を授与する。
高野明彦氏は、情報学の立場からデジタルアーカイブ技術の研究開発を牽引してきた。「文化遺産オンライン」や「想-IMAGINE Book Search」など、多様な情報を横断的に繋ぐシステムを実装した功績は大きい。これらは単なるキーワード検索を超え、関連情報の連鎖による予期せぬ知識との出会いを創出するものである。また、内閣府知的財産戦略本部に設置された、デジタルアーカイブ推進に関する検討会の座長を、その前身時代から10年にわたってつとめ、ジャパンサーチの構築を主導した。
これらの貢献を表彰し、功労賞を授与する。
実践賞
一般社団法人EPADは、2020年の事業発足以来、3861作品に及ぶ舞台芸術映像を収集・保存している。また、単なる保存にとどまらず、複雑な権利処理を行って配信を可能とし、地方ホールでの上映会や教育現場への提供など、多角的な利活用を強力に推進しているが特筆される。舞台芸術をデジタル資産として蓄積し、社会的な共有財産として循環させるエコシステムを短期間で構築した功績は、分野を超えたモデルケースとして意義深い。
デジタルアーカイブの新たな可能性を切り拓いたことを評価し、実践賞を授与する。
iプラザうえだ(上田市市民ICT推進センター)は上田市マルチメディア情報センターとして開設された1995年以来、30年にわたり地域資料のデジタルアーカイブ事業を継続してきた。技術環境の変化に対応しつつ、現在は上田市デジタルアーカイブポータルサイトとして、博物館・図書館等をつなぎ、近年はジャパンサーチとの連携を通じて地域情報を広く発信している。地域に根ざした資料の保全と活用、そして持続可能な運営モデルを構築した実績は、地域デジタルアーカイブの実践の鑑と言える。
この長期にわたる継続的な取り組みを評価し、実践賞を授与する。
佐賀県立図書館は、2011年以来の継続的なデジタルアーカイブの構築・運用に加え、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの付与による徹底したオープン化を推進している。集まった豊富な利活用事例を公開し、資料価値の可視化に成功している点も特筆される。また、県内市町村のデータも集約している。これらはいずれも先行事例があるとはいえ、それぞれ状況をキャッチアップしつつ着実に運営を行っていることにより、「知の循環」を実現した運用モデルとして、重要な指針となるものである。
その取り組み姿勢を高く評価し、実践賞を授与する。
「条例Web作成プロジェクト」は、同志社大学図書館情報学研究室等が中心となり、全国の自治体がWeb公開する条例・規則を網羅的に収集・保存し、「条例Webアーカイブデータベース」として提供している。国の法令検索では捕捉しきれない地域独自の条例を、自治体の枠を超えて横断検索可能にした意義は極めて大きい。市民の知る権利を保障し、行政実務や学術研究を支える公共文書のデジタル基盤として、長期的かつ安定的に運用されている点は、研究成果の社会実装の模範と言える。
公共情報の利活用環境を整備した功績を評価し、実践賞を授与する。
飛騨市教育委員会は、飛騨みやがわ考古民俗館において「石棒クラブ」プロジェクトを展開している。1,000本を超える縄文期の遺物である石棒の3Dデータをオープンデータ化し、SNSでの連日発信や市民参加型のアーカイブ構築を推進した。過疎化が進む地域において、これらの活動は関係人口の創出に成功し、入館者数の9倍増やふるさと納税の増加という具体的成果に結びついた。また、遺構のデジタル記録なども積極的に取り組んでいる。デジタルアーカイブが地域の課題解決と活性化に直結することを実証した功績は、全国の小規模自治体の活動のモデルとして高く評価できる。
この先駆的な取り組みに対し、実践賞を授与する。
学術賞(研究論文)
【最優秀賞】
本論文は、デジタルアーカイブの長期保存における国際標準であるOAIS参照モデルに基づき、東京大学史料編纂所を事例として情報パッケージ(AIP)の作成プロセスを実証的に検討したものである。これまで概念的な議論に留まりがちだった長期保存の議論について、具体的な事例を用いた検証を通じて作成時の課題を明らかにした点は、極めて実践的かつ有用な成果である。長期保存というデジタルアーカイブにとっては重要でありながら困難なテーマに正面から取り組み、今後の議論の基盤を提示した意義は極めて大きい。
この領域の研究と実践のさらなる深化を期し、学術賞(研究論文)最優秀賞を授与する。
本研究は、「大江健三郎文庫」に収蔵されている大江の自筆原稿を対象に、デジタルアーカイブ構築における大きな負担である「複数メタデータセット間の関連付け」の自動化を検討したものである。実際のデータを対象に複数の手法を組み合わせて実験を行い、正答率と処理時間のバランスが改善されることを実証した点は注目に値する。現段階の技術環境を前提に、自動化による作業効率化の可能性を具体的に示したことは、多くのアーカイブ機関にとって有用な知見であり、今後のメタデータ整備手法の発展に寄与する意欲的な研究と言える。
この成果を評価し、学術賞(研究論文)を授与する。
小森一輝, 城阪蒼紀, 八木智生「デジタルアーカイブの絵画を活用した古典の学習モデル:『平家物語』と『竹取物語』を例として」(デジタルアーカイブ学会誌, 2025, 9巻3号, p. e1-e9)
本論文は、デジタルアーカイブ上の絵画資料を活用した古典の学習モデルを提案し、『平家物語』と『竹取物語』を対象とした授業実践を通じてその有効性を検証したものである。本文と絵画を同時に参照させることで読解を深化させる手法は、教育現場におけるデジタルアーカイブの具体的な活用法を実証的に示したものとして評価できる。デジタルアーカイブの教育分野での利活用促進は従来から求められているが、まだまだ蓄積が必要な段階にある。そのなかで、実践的な事例を提示し、国語教育への広範な応用可能性を示唆した意義は大きい。
今後の教育利用研究の発展を期待し、学術賞(研究論文)を授与する。
学術賞(著書)
池内有為・木村麻衣子責任編集『「メタデータ」のパースペクティブ』(勉誠社, 2025)
博物館、図書館、公文書館を横断した情報利活用において、その基盤となる「メタデータ」の重要性は論をまたない。しかし、これまでこのテーマを専論として包括的に扱った研究成果は乏しかった。本書は、メタデータの位置付けや運用について、多様な立場、多角的な視座から体系的な議論を展開した画期的な論集である。未開拓であった領域に光を当て、学術的かつ実務的な知見を集約して今後の研究領域の礎を築いた功績は極めて大きい。デジタルアーカイブの質的向上に資する、重要な成果であると位置付けられる。
この成果を評価し、学術賞(著書)を授与する。
嘉村哲郎責任編集『デジタルデータの長期保存・活用:その理論と実践』(勉誠社, 2025)
デジタルアーカイブの長期保存は、1990年代より重要な課題とされながら、システム基盤や運用管理体制を含めて包括的に論じた文献は乏しかった。本書は、この困難なテーマに対し、理論研究と実務的視点を融合させ、多様な実例を交えて詳細に検討した待望の書である。単なる技術論を超え、組織的な運用やインフラ構築の観点から長期保存を捉え直し、将来の活用に向けた確かな指針を確立した意義は極めて大きい。
デジタルアーカイブの持続可能性を支える成果として高く評価し、学術賞(著書)を授与する。
一般財団法人人文情報学研究所(監修)、大向一輝・永崎研宣・西岡千文・橋本雄太・吉賀夏子『IIIF[トリプルアイエフ]で拓くデジタルアーカイブ コンテンツの可能性を世界につなぐ』(文学通信, 2024)
本書は、デジタルアーカイブの相互運用に不可欠な国際規格IIIFについて、技術的側面や具体的な活用例まで幅広く、包括的に情報を提供する入門書である。IIIFは、自前で高度なアーカイブを構築せずとも、規格に準拠して公開すれば、他者が活用しコンテンツの価値や利便性を高めてくれる仕組みであり、まさに複数の主体による知の構築の基盤となる仕組みである。また、書籍発売と同時に全文をオープンアクセス公開した出版形態は、知の共有を志向するデジタルアーカイブの理念を体現している。
本書の内容自体と出版モデルの両面から、重要な成果であると評価し、学術賞(著書)を授与する。
中村覚・逢坂裕紀子責任編集『デジタル時代のコレクション論』(勉誠社, 2025)
本書は、デジタルコンテンツの収集、保存、活用を取り巻く現状と多岐にわたる議論を、理論と実践の両面から包括的に検討した論集である。デジタルアーカイブが真にアーカイブとして機能するために不可欠な「コレクション(収集)」という行為に焦点を当て、その変容と課題を体系的に整理した点は極めて重要である。散逸しがちなデジタル情報の現状を把握し、将来のコレクション形成の在り方を考える上で最適な指針となる一冊である。
この成果を高く評価し、学術賞(著書)を授与する。
学術賞(開発)
青池亨氏は、国立国会図書館電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室において、デジタルアーカイブの技術基盤開発を牽引してきた。第4回学会賞学術賞(基盤・システム)の対象となった「NDL Ngram Viewer」に続き、「NDL古典籍OCR」「NDL古典籍OCR lite」の開発・実装は、デジタル資料のテキスト化と検索・分析の利便性を飛躍的に高めるものであった。組織の中で実施されたプロジェクトではあるが、氏の卓越した技術力と献身的な貢献が、これら高機能なアプリケーションの実現と大規模な利活用の進展に不可欠であったことは論をまたない。
その功績を称え、学術賞(開発)を授与する。
守岡知彦氏は、文字情報サービス環境「CHISE」の開発と運営を通じ、20年以上にわたり漢字に関する基盤情報をオープンソースで提供し続けている。文字コードと詳細な字体データベースを統合した本システムは、異体字や古い漢字字形などのシームレスな同定を可能にし、古典籍のデジタル翻刻や目録作成において不可欠なインフラとなっている。また、Unicodeの拡張議論における参照など、デジタル環境における文字処理の国際的な基盤としての役割も果たしており、その恩恵は計り知れない。
デジタルアーカイブの利活用を支える技術的貢献を評価し、学術賞(開発)を授与する。
